日本とアメリカの欠損金の繰越控除を比較し、相違点について、税理士・USCPA(米国公認会計士)が解説します。
概要
法人税を計算するにあたり、日本の欠損金の繰越控除と同様の制度が、アメリカにもあります。ただし、欠損金を繰り越せる期間など、取扱いに異なる部分があります。特に繰越期間については、アメリカは無期限(indefinitely)なのに対し、日本には期限があります。
欠損金(Net Operating Loss : NOL)の繰越控除
日本の欠損金の繰越控除
(1) 欠損金の繰越控除、繰越期間
法人(corporation)が青色申告書を提出した事業年度(fiscal year)に生じた欠損金額は、翌年以後10年間にわたって繰り越すことができ、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されます。つまり、利益が出たときにその利益と繰越欠損金額を相殺することができます。
欠損金を繰り越せる年数は、過去に次のように改正がありました。
平成16年度改正 | 平成13年4月1日以後に開始する事業年度より繰越期間は7年間 (改正前は5年間) |
平成23年度改正 | 平成20年4月1日以後に終了する事業年度より繰越期間は9年間 |
平成28年度改正 | 平成30年4月1日以後に開始する事業年度より繰越期間は10年間 |
(2) 損金算入額
中小法人以外の法人は、各事業年度の所得の金額の50%相当額が限度となります。これに対して、中小法人にはこのような制限はありません。中小法人は、普通法人のうち資本金の額が1億円以下で一定のものなどが該当します。
米国の欠損金の繰越控除
(1) 欠損金の繰越控除、繰越期間
日本の場合、繰越期間に制限があるのに対して、アメリカの場合、2018年1月1日以後に終了する課税年度より生じた法人の欠損金は、原則として無期限に繰り越すことができます。これはアメリカの個人(indivisual)の納税者の場合も同様です。
日本と違い無期限に繰り越せるのは、欠損金が生じた場合、何年経過しても所得と相殺できるのが合理的、公平だという考えがあるのでしょう。
・日本の個人の場合
青色申告者の事業所得などで純損失の金額が生じたときは、翌年以後3年間にわたって繰り越すことができます。純損失の金額とは、損益通算の規定を適用してもなお控除しきれない部分の金額をいいます。なお、令和5年4月1日以降に一定の災害により生じた純損失の金額につき要件を満たす場合には、一定の損失額については繰越控除期間が3年間から5年間へと延長されました。
(2) 損金算入額
アメリカの場合、2018年1月1日以後に開始する課税年度より生じた欠損金の繰越控除は、繰越年度の課税所得(taxable income)の80%までという制限があります。これはアメリカの個人の納税者の場合も同様です。
・日本の個人の場合
アメリカのように、繰越年度の課税所得の80%までという制限はありません。各年分の所得金額の100%を控除できます。
根拠法令等
法人税法 第57条(欠損金の繰越し)
26 U.S.C. § 172 – U.S. Code – Unannotated Title 26. Internal Revenue Code § 172. Net operating loss deduction