贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。
今回は、2024年1月1日に改正があった、「暦年課税」の生前贈与加算の持ち戻し期間の延長(3年から7年)について解説します。
「暦年課税」の贈与税の課税方法
贈与税は、次の算式により計算します。
(1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額-基礎控除110万円)×贈与税の税率
※ 1年間は1月1日から12月31日の期間です。
贈与税の税率は、10%から55%の超過累進税率です。そのため贈与税の計算は、次に記載する速算表を使用すると便利です。
ちなみに、基礎控除の110万円があるため、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。この場合、贈与税の申告は不要です。
贈与税の速算表(税率)
贈与には「一般贈与」と「特例贈与」があります。
・一般贈与 … 次の特例贈与に該当しない贈与をいいます。
・特例贈与 … 父母や祖父母などの直系尊属から、その年の1月1日において18歳以上(※)の子や孫への贈与をいいます。
(※)令和4年3月31日以前の贈与については20歳以上となります。
一般贈与の場合
一般贈与財産用(一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
特例贈与の場合
特例贈与財産用(特例税率)
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
暦年課税で生前贈与を行った場合
生前贈与加算(持ち戻し)
暦年課税で生前贈与を行った場合、生前贈与加算という制度があります。生前贈与加算とは生前贈与をしてから一定の期間内にその贈与者が亡くなった場合、その贈与額を贈与者(被相続人)の相続財産に加算する制度です。この加算することを、持ち戻しと言います。
2023年12月31日までは、生前贈与をしてから「3年以内」に贈与者が亡くなった場合、持ち戻しの対象となっていました。この年数に改正が入り、2024年1月1日以降の贈与の場合には、その贈与から「7年以内」に贈与者が亡くなったときは、持ち戻しの対象となりました。つまり、持ち戻しをする期間が長くなりました。
生前贈与加算の対象者
生前贈与加算の対象者は、次の3つです。
・相続によって財産を相続した人
・遺言によって財産を遺贈された人
・みなし相続財産を取得した人
例えば、孫や、子の配偶者(嫁、婿)で、上記に該当しなければ、生前贈与加算の対象にならないです。
また、相続人であっても、相続放棄や遺産分割協議により遺産を一切取得しない人は、生前贈与加算の対象になりません。
生前贈与加算の3年から7年への延長のスケジュール
7年への延長は段階的に行われます。
(1) 2027年1月1日までに相続が発生した場合は、生前贈与の持ち戻しは3年です。
(2) 2027年1月1日以降、2031年1月1日までの期間は、2024年1月1日から亡くなった日までの期間が持ち戻しの対象期間となります。
(3) 2031年1月1日以降の贈与からは、7年間となります。
※ 3年前よりも前の期間(4年~7年)に贈与した金額は、合計100万円まで持ち戻しは不要です。注意点として、毎年100万円ではなく、3年前よりも前の期間の4年間(4年~7年)で100万円となります。
実質的な増税
生前贈与加算の期間が「3年」から「7年」になったことは、実質的な増税となります。
この改正の背景にあるのは相続税と贈与税の一体化です。どのタイミングで財産を移転しても相続税と贈与税の税負担を一定にすることが目的です。アメリカでは相続税と贈与税が一体化しており、日本もこれに近づいた形になっています。
対策
孫や、子の配偶者に贈与する
孫や、子の配偶者(嫁、婿)で、次に該当しなければ、生前贈与加算の対象にならないです。例えば、この孫や、子の配偶者に、毎年110万円ずつ贈与をすれば、贈与税や相続税がかからずに、生前に財産の移転が可能です。
また、相続人であっても、相続放棄や遺産分割協議により遺産を一切取得しない人は、生前贈与加算の対象になりません。
・相続によって財産を相続した人
・遺言によって財産を遺贈された人
・みなし相続財産を取得した人
相続時精算課税制度の適用
相続時精算課税制度も2024年1月1日に改正がありました。
相続時精算課税制度を選択すると、年110万円以下の贈与の場合、贈与税がかからず、生前贈与加算の対象にもなりません。贈与税の申告も不要です。
ただし、この制度を選択すると、年110万円を超える部分の贈与については、すべて相続財産に持ち戻す必要があります。また、一度この制度を選択すると暦年課税へ戻ることができません。
その他の贈与税の非課税措置を検討する
贈与税には、非課税措置を受けられる特例がいくつかあります。例えば次のようなものがあります。これらを検討するのもいいでしょう。
・教育資金の一括贈与
・結婚・子育て資金の一括贈与
・住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税